刑事堀部
あらすじ 疎開者らの出港直前、堀部はサエの一言を機に、事件の真相に気付いた。しかし証拠はなく、彼は、みよ子だけに推理を話す。翌日、銀行の捜査で急きょ彼は呼び戻され、そこで篤志の死に立ち会う。出港した船では、スミレがある光景を思い出した。それ…
再び8月13日。 北海道へ向かう連絡船の中、正美は焦った。慌てて船員らに事情を説明し、妙子を医務室へ運んでもらう。 正美は嘘をつき、彼女は濡れた階段で足を滑らせ落ちた、と説明した。船員によると、妙子は気を失ってはいるが、大事には至らなそうで…
あらすじ 疎開者らの出港直前、堀部はサエの一言を機に、事件の真相に気付いた。 「どうしてあの子だと?」 港に残ったみよ子は率直に尋ねた。堀部は自分の後頭部をなでた。 「まずはあなたのおかげです」 「私?」 「ええ。殺したり、殺されたり。あなたは…
明け方。 谷山が交代で仮眠をとっているころ、堀部は自分の決断に悩んでいた。 彼はついに事件の真相に迫ったのだが、犯人逮捕まではしなかったのである。 その後、篤志の死に立ち合い、彼はこの決断がやはり正しかったと思うようになる。 しかし、まだ気が…
サエに気付いたスミレは彼女に近寄り、 「ごめんなさい」彼女は深く頭を下げた。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 何度も謝罪を繰り返す彼女の目には、透き通った涙も浮かんでいた。サエはスミレの姿を真剣に見つめ、隣のみよ子が冷静に見守った。 「先輩、…
あらすじ 則子殺害の捜査は振り出しに戻った堀部。北海道への緊急疎開も始まり、彼は疎開者の誘導・警備のため捜査断念を余儀なくされる。このころ、町では疎開者が集まる銀行で異変が。様子を確かめようと、銀行に潜入した篤志。そこでは、客と行員らがソ連…
つまり差し違えてでも殺してやる、ということである。 飛び掛かり、ポケットにしまったヘアピンで刺し殺す考えだ。 うまくいけば銃を奪って殺してもいい。 篤志にとっては、ごく単純で完璧な計画だった。周りの他人には、まったく無謀なそれだった。 篤志は…
あらすじ 則子殺害の捜査は振り出しに戻った堀部。北海道への緊急疎開も始まり、彼は疎開者の誘導・警備のため捜査断念を余儀なくされる。このころ、町では疎開者が集まる銀行で異変が。様子を確かめようと、銀行に潜入した篤志。そこでは、客と行員らがソ連…
軍服ではなかったが、顔付き、肌の色、体格、そして時折口にする言語から、間違いなくソ連人であった。 窓口前の広間に、人々は集められていた。 ……こりゃあ、痛い目に遭うどころじゃないぜ。 壁の裏に身を潜め、篤志は事の重大さを知った。 ……今度は、あい…
楡井は気晴らしのため、篤志を外へ連れ出していた。気晴らしといっても、町に大した娯楽などないのだが、あの狭くてねっとりした部屋に男2人でいるよりましである。道行く疎開者たちを見て、楡井が聞いた。 「サエとかいう娘の見送りはしないのか?」 「す…
……女の話でもするか。 ありきたりに、今度はそう考える。けれど、女のことでは、ひわいでいやらしい思い出話しか彼にはない。彼にとっては、また味わいたい甘美な思い出ではあったが、ここで披歴することもないだろう。 ……こいつには知られてることも多いし…
あらすじ 暴動におびえた仲間の達吉は自白し、則子、源造らとの計画が明るみになる。彼らは対米敗戦とソ連侵攻を見据え、ソ連と取引を画策していた。逮捕された真壁は、殺害したのは則子ではなく、もう一人の仲間・高太郎だとも自供。迷いがあった高太郎は邪…
あらすじ 則子の死で、ある計画が頓挫した源造ら。源造は、その責任を則子の愛人だった真壁に押し付けた。堪えかねた真壁は、源造失脚を狙い、「売国奴」の醜聞を流布。触発された島民らは、源造襲撃に及ぼうとするも、堀部の機転で、源造たち一家は警察が保…
翌朝。8月12日。 この日、二つの大きな話題が町を駆け巡った。一つは新聞報道。その見出しは、 『本土に緊急疎開へ』 記事によると、 『本日付で樺太庁長官が、13歳以下の男女と14歳以上の婦女子など約16万人を疎開対象とする通達を各市町村に出す…
あらすじ 則子の死で、ある計画が頓挫した源造ら。彼は、その責任を則子の愛人だった真壁に押し付けた。 「酪農に興味があるのよ」 「はあ、知りませんでした」 どうにも妙子が不思議がってくるので、スミレは理由を急ごしらえする。 「島の産業を知っておく…
「そうだよな。サエは、夜中に密会する生徒と付き合うような不良じゃない」 「まあ。私のこと、よく分かるんですね」 「分かるさ。俺は、君のことなら何でも分かる」 2人は見つめ合った。 「……サエ」 「篤志さん」 篤志がサエの手を握った。 「サエにはいつ…
あらすじ 疑惑の目を炭鉱業の源造らに向けた堀部だったが、そのころ町で騒ぎが勃発する。ある朝鮮人が、ソ連側のスパイと疑われ、島民らに襲われたのだ。見かねた青年・篤志が、どうにか朝鮮人を助け出し、堀部の家に一時かくまってもらう。そこを、かぎつけ…
あらすじ 疑惑の目を炭鉱業の源造らに向けた堀部だったが、そのころ町で騒ぎが勃発する。ある朝鮮人が、ソ連側のスパイと疑われ、島民らに襲われたのだ。見かねた青年・篤志が、どうにか朝鮮人を助け出し、堀部の家に一時かくまってもらう。そこを、かぎつけ…
あらすじ 対米戦争末期の1945年8月、南樺太に勤務する警察官の堀部は、ある日、火事の焼け跡から出た死体の捜査に出る。死体の状況から殺人と判断する堀部。同じころ、島では国境を接するソ連が対日開戦を宣言する。堀部は聞き込みした女学校で、生徒の…
楡井は可能な限りの小声で、「まさかお前、俺をしょっぴくつもりで……」 「馬鹿」 「何です?」 「ごめんなさい。こっちのことです」 谷山は2人の顔をじろりとのぞいた。 「堀部なら、朝から出とる 「例の事件の捜査で?」 「……そうだが」 谷山は篤志の左腕…
「それにしても谷山、あとで正しい狐の煮方を教えてやろう」 そうして小野田家に着いた堀部。玄関を叩くと、出てきたのは昨日の女学生、妙子だった。 「あら」 「おはようございます。そうか、小野田妙子さん。こちらがご自宅でしたか」 「はい。昨日はどう…
あらすじ 対米戦争末期の1945年8月、南樺太に勤務する警察官の堀部は、ある日、火事の焼け跡から出た死体の捜査に出る。死体の状況から殺人と判断する堀部。同じころ、島では国境を接するソ連が対日開戦を宣言する。堀部は聞き込みした女学校で、生徒の…
みよ子は憤然とした。 「だから、彼女たち以外で誰がやったというのですか?」 「やったというより恐らく、やってしまった、でしょう」 堀部は冷静に答えた。 「ねえ、前沢先生」 みよ子と真壁がぎょっとする。 「あなたが花瓶を落とし、牧田サエさんに怖い…
あらすじ 対米戦争末期の1945年8月、南樺太に勤務する警察官の堀部は、ある日、火事の焼け跡から出た死体の捜査に出る。死体の状況から殺人と判断する堀部。同じころ、島では国境を接するソ連が対日開戦を宣言する。堀部は聞き込みした女学校で、生徒の…
「いた」 スミレの瞳が、廊下を歩くサエの姿を捉えた。今日のスミレは、どうも朝から胸糞が悪い。昨日の夕飯のせいか、それとも、父の様子が普段と違ったのが気になるからか、あるいは朝食、いや、やっぱりあのソ連のせいであろうか。 考えてみても理由は定…
あらすじ 対米戦争末期の1945年8月、南樺太に勤務する警察官の堀部は、ある日、火事の焼け跡から出た死体の捜査に出る。死体の状況から殺人と判断する堀部。同じころ、島では国境を接するソ連が対日開戦を宣言する。 「うまく立ち回ってみせるわ」 「あ…
「あのう……」 こう声を掛けられたのは、堀部が校舎内をぐるりと回り、玄関前まで出てきたときだった。 肌の白い少女である。サエだ。 「こちらを落とされませんでしたか?」 サエは堀部に片手を差し出し、その手のひらには男物のハンカチーフが乗っていた。…
ここまでのあらすじ 対米戦争末期の1945年8月。南樺太に勤務する警察官の堀部は、ある日、火事の焼け跡から出た死体の捜査に出る。死体の状況から殺人と判断する堀部。同じころ、島では国境を接するソ連が対日開戦を宣言する。 2 手合わせ 「もし」 「…
サエはみよ子のいびりから早く逃れたく、たどたどしく弁明しようとするのだが、 「牧田さん、最近落ち着きがないんじゃなくて?」 とか、 「授業に集中してる?」 だとかの次には、 「とりわけ私の授業でぼうっとしてない?」 や、 「あなた、まだ子供なのだ…
若くて、美人、それに賢い。 こうした才色兼備が思春期の女子ばかりの校内で人気を得るには、こつがあった。愛嬌だ。サエが通う高等女学校の生徒で、その最たるが、5学年の古谷スミレである。 社長令嬢の境遇に甘んじることなく、頭が冴え、同窓への目配り…