刑事堀部
「何ですか?」 じっと後を付いてくる青年に少女はたまりかねたのだ。 「君、奇麗だね」 少女の両耳がほんのり赤らむのを篤志は見逃さない。 「失礼。奇麗だなんて聞き飽きてるでしょう。見るからに、もてそうだ」 「そんなことありません……」 「儚いね。不…
「こちらです」 それから道中、若者は会話に紛れ、堀部とやらを観察した。 「自然発火だと思っていましたが、事件性があるのですか?」 「いや、念のためにというやつです」 思いのほか慇懃な態度の堀部に、若者は気を許して話してしまう。 「林業が島の生命…
1 開戦 1945年8月5日。 樺太で今年最初の山火事だった。 「もっとや、もっと!」 「走れ走れ!」 駆け付けた島民らは自然鎮火など待ってられず、腹から出る怒声で火を吹き消さんばかりの威勢、かえって壮観である。 幸いにも火の手はそれほどでもなく…