lulu lalala's blog

確かかなと思った言葉を気ままに。

【小説連載】刑事堀部(19)~先手 その3

あらすじ

則子の死で、ある計画が頓挫した源造ら。彼は、その責任を則子の愛人だった真壁に押し付けた。

 

「酪農に興味があるのよ」

「はあ、知りませんでした」

どうにも妙子が不思議がってくるので、スミレは理由を急ごしらえする。

「島の産業を知っておくのは良いことでしょ」

「無駄口きいてないで、もっとしっかり握れって」

「私に命令しないで!」

篤志の注意にも、スミレは可愛げなく言い返した。

「おうおう」

この啖呵には篤志も万歳だ。彼女は特に妙子に厳しく、キッとした嫌な目を向けた。

「私も驚いたわ。妙子さんがサエさんと仲良しだったなんて」

「違いますわ。成り行きで……」

「高文さんともお付き合いしているのでしょう? 妙子さんって、秘密の多い人だったのね」

「ご、誤解しないでください。せ、製紙業のうちと材木業の小野田家は、もともと付き合いが深いのです」

高文はモゾッと弁明した。

「あら、じゃあ妙子さんは高文さんの恋人じゃないの? 妙子さん、あなた違うんですって」

妙子も高文も気まずくなる。こうなってくると篤志、今度は2人のために同情でもしてやりたくなった。

 

……妙子ってのもこまっしゃくれた女だけど、こっちはもっとだ……。

「玉田さん、堂々としなきゃ」

自分のことはさておき、篤志は偉ぶった。

「世の中には、夜更けの学校で逢引きするような男もいるらしいけど、あんたそんな人じゃないだろ」

篤志は本当にただ励ます意味だけ込めて言った。それなのに、思いもよらぬ反応が返ってきて、びっくりだ。

「ど、どうしてそれを!」

「ええ?」

妙も恥ずかしそうに、

「た、高文さん……」

「い、いや失敬……」

「まさか2人が?」

これにはさすがに驚くだろう。

同時に、……あいつ残念がるだろうな。篤志は思う。いやはや、ひょんなことから、これで楡井の勘が外れたのはほぼ確定的だ。だって、この高文に則子を殺す動機などありそうもないじゃないか。

篤志さん」

サエも理解した顔をした。

「うん」

「何のことです?」

篤志はスミレにも事の次第を手短に説明してやった。

「妙子さん、あなたやっぱり秘密の多い人だったのね」

「やめてください、恥ずかしい……」

「ぼ、僕たちは真剣なんです」

「そう? 私なら穴でも掘って入りたいですね。用務員にまで見られるなんて」

スミレは軽蔑の眼差しを注いだ。篤志はまた話をそらしてやろうと、「こっちはてっきり別の人かな、と想像してたんだ。俺と同い年くらいの軍人さんで……」

彼はあの日出会った尊史のことを思い浮かべていた。

「そいつ、出兵前も学校まで女に会いに来てたから、もしかしたらって、思ってたんだけど予想が外れた」

そうして、牛の乳絞りも意外と精力的に終わり、それぞれ帰ろうとしていたとき、

「あのう……」と、高文が篤志に近付き耳打ちした。

「あなた、ご存じなのはあれだけで?」

「え? はあ」

「ありがとう」高文はほっとした表情で立ち去った。念のためだが、彼が心配したのは火防事務所で妙子以外の女性を連れ込んだ件だったのはいうまでもない。

この後、「もし」スミレが篤志に声掛けた。

「先ほど話に出た軍人さんとはどういう方?」

「俺の知り合いだけど」

「いつの話です」

「ついこの間さ。9日かな」

「そう」

スミレは篤志の目を射るようにのぞきこんだ。

「それで、あなたは、サエさんとお付き合いされてるのね?」

返事を聞いたら、無関心に彼女はすたこら去ってった。

「……変な人たち。俺たちも行こう」

篤志さん。今日は楽しかったです」

サエは牛乳のいっぱい入った瓶を手に、嬉しそうにした。

「俺も楽しかったよ」

2人は初めて唇を重ねた。

同じころ。

「はあ、はあ……」

「……あ、あ……」

ある家の中、畳に敷いた粗末な布団で男女が汗をかき、あえいでいた。

「ああ、真壁先生……」

「ま、正美君……」

ことが終わり……。

「今日の先生、いつもより強引だったわ」

松本正美は服を着ながら言った。

「どうしたんです?」

「嫌なことがあったからね」

「嫌なこと?」

「大したことじゃあないんだけど……君に慰めてもらいたくて」

真壁は正美の背中を抱き、全身を飽きるまでまさぐった。彼女が帰ると、

「いい気分になった。続きをやるか」

真壁は机に向かった。

「……俺を舐めるなよ、古谷」

 

続く