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確かかなと思った言葉を気ままに。

憲法に対するそもそもの誤解(10)終~憲法が国体をつくるのではなく、築き上げる国体が憲法を栄えさせる

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 考えてもみてほしい。

 

明治憲法発布より28年も前の1861年、アメリカ大陸では南北戦争が起き、北軍が勝利。ヨーロッパでは1871年に鉄血宰相ビスマルク率いるプロイセンがドイツを統一した。

内政の確立と安定は必然的に外への進出意欲を強める。欧米における帝国主義の下地は着々と編まれていったのだ。

 

そうした外圧を感じながらの国家運営がどれだけやりがいがあり、かつ恐怖をもよおす難業であるかは、時を経た今のほうが実は冷静に感じられる。

 

当時は、内なる鼓動の高鳴りが興奮のためか、あるいは緊張のためなのかの区別も定かではなかったろう。時代の荒波に飲まれるとはそういうことだと思う。


こうした流れを踏まえて明治憲法と対面すると、不思議な想像力が湧いてくる。

 

明治憲法はドイツ憲法を模範にしつつ、君主の意思で制定されたとする欽定憲法である。これが外国で学んだ明治期の知識人たちの不満でもあった。

 

ーー明治憲法は、ヨーロッパ諸国のように民衆が勝ち取ったものではなく与えられたものーー。

 

文明的劣等性がコンプレックスだったのは想像に難くない。

 

有形の技術や資本だけでなく、無形の風格でも欧米に劣っていたのであれば、そのショックと道のりの険しさは地獄絵図のようにも映ったろう。

 

そして、地獄絵図の視界を通してみた場合、現代の法学者からは忌避される明治憲法第十八条「日本臣民タル要件ハ法律ノ定ムル所二依ル」の条文には人権軽視とは違った解釈が浮かび上がってくる。

 

それは、そもそも国民総員がまだ未開状態であるのに「国民とはこうである」などと軽々に断定できないだろうという思慮深さと無念さである。

または、外国勢から人間扱いされない危険もある中で、まずは国民の存続を優先し、「日本人が何者であるかは日本人が決める」といった対外的決意表明の意図があったとみることもできる。 

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 いずれもヒロイズムを加味した妄想ではあるが、もし明治人が聞いていたらこう解釈されて喜ばないはずはない。


憲法もいわば欽定憲法のようなものだ。

しかし、こちらはただただ残念な授かり方をしてしまった。

 

その内容に残すべきものはあっても、総体として崇めるまでの絶対性はない。この程度の常識が確立していない時点で、私には今の日本人が明治人より優れていると思えない。

 

米国、中国と国家の二大悪党に挟まれた状況を鑑みれば、現代人は明治期にも増して奮起すべき危機に直面しているはずなのに、その自覚があるのかないのか判然としない。

失望したくない私は期待しない側の一味だ。

 

メディアでは天皇制に関連し政教分離を取り上げておきながら、来日したローマ教皇核廃絶や格差の是正などを訴えてきたら臆面もなく政治の責任を問うている。

一体何なのだ、支離滅裂ではないか。

日本人の認識力のいい加減さが目につく限り、私ははっきり「日本人嫌いである」と念を押しておく。


明治憲法は欽定憲法の形式こそ取れども、最初の産みの苦労があった。

子細は法律に委ねるとする箇所がやたら散見される大雑把な条文だったものの、当時の憲法づくりはこれから西欧列強と肩を並べるための前座みたいなものだった。

 

ーーやるべきことが山ほどある。憲法が国体をつくるのではなく、築き上げる国体が憲法を栄えさせるーー。

 

コンプレックスと同時に、こういった手順を当たり前のように認識していたとも思える。

 

明治憲法ははた目には民衆に素っ気なく、手続きの基本原則を網羅しただけの法律ではあったが、時代の雰囲気が理念の不足を補っていた。時代の雰囲気を強調し過ぎて思考がファナティックに傾くのは嫌なのだが、それにしても、現代人は時代の雰囲気に対する感度があまりに鈍過ぎはしないか。


明治人を一方的に礼賛する気はない。民衆には、当時も今もふがいない面が多くあるに違いない。それでも今を生きる人間としては、手を出せない昔に多少の哀愁、手を下せる今にはかなりの懐疑を向けたくなってしまう。

 

その気分に任せて吐露すれば、明治人のタフな認識力に比べ現代人の自慢とはせいぜい、「物分かりがよく大人しくなった」とか、「栄養が豊富で体が大きくなった」だとか、くらいではなかろうか。

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