中学生くらいまでは映画を良く観た。
当時、主流だった単館上映から、複数映画を扱うシネマコンプレックスが現れ、その場所一つにさえ行けば、複数の映画を選べる環境が生まれた。
私の映画鑑賞は熱を帯びた。
中学生なら1回約1000円だったか。
ひと夏に10本は観た記憶がある。
当然、ジュース、スナックはセット。
正月のお年玉は、そこでほぼ消化された。
映画館は特別だった。
暗めな館内の床には大抵、絨毯のような柔らかな素材が敷かれ、一歩入った瞬間、五感全体で日常とは違う空気を認識する。
遊園地に来たときともまた異なる、静かな高揚感がとても心地よかった。
チケットとお菓子を買い、受付からホールまで進めば、もう後戻りはできない。
いったん席に着いた自分は、トイレに行くことすら躊躇した。
無粋な行為な気がしたから、ホールに入る前に手洗いは必ず済ませたのだ。
映画館は神聖な場所ですらあった。
一人で行く場合も、友人たちや家族と行くこともあった。
いずれのケースにしろ、映画館の魅力が損なわれた試しはない。
映画館があれば、全てが成立した。
特に映画を観る機会が多かったのは、夏休みなど学校が長期休暇に入る時期だろう。
夏休みの娯楽といえば、キャンプ、海水浴が人気だろうが、コスパの良い遊びとして、映画館での映画鑑賞は私の中で密かな上位にランクしていた。
映画館で上映される映画は、映画館でなければしばらく観られない。
今みたいな手軽さは皆無。
だからこそ、限られた時期に、限られた場所へ、タイミングが合った友人らと映画館に足を運んだ体験は変え難い思い出になった。
特に記憶に残っている映画といえば、「学校の階段」や「もののけ姫」。
学校の階段は、単館上映で観た最後の作品だったかもしれない。
自分と同世代の子役たちが、学校内の怪奇に巻き込まれ、怯え、恐れ、けれど徐々に立ち向かう姿が痛快だった。
子どもの夏休み映画のど真ん中。
映画館で2回観た初めての作品だった。
今の若い人は分からないかもだが、当時のもののけ姫の人気はすごかった。
これまでのジブリ作品とは一線を画する高尚な世界観の脚本。スピード感のある映像。
アシタカとサンに惹かれた。
上映時に中学生だった私は、もののけ姫に込めれたメッセージを全て読み解こうと、映画を観てから数日間は、もののけ姫のことばかり考えていた気がする。
こうした思い出は、間違いなくその後の自分を規定する倫理の一部となった。
あの時間はもう返ってこない、新たに得ることもない。
少年時代と夏休み。
今の時代なら今の時代なりの回答があるだろう。
少年時代と夏休み、といえば・・・私の答えは、やはり映画だ。