「牙狼の称号なんていらない」
空遠がこう声を振り絞った後、葉霧が見せた表情は明らかに戸惑い。それを切り捨てるアザミの姿が印象的でしたが、似たような構図を何度も目にした気がする。
牙狼『VERSUS ROAD(VR)』8話、『COUNTER』
所説ありますが、男は過去に囚われる生き物です。今に至るまでの足跡が己の納得のいくものであったかどうかが、明日の自信に直結する。過去の体たらくを無視してまで元気でいられない。人によって程度の差はあれ、男とは、そんな生真面目(厄介)な存在なのです。
葉霧は、あがく空遠の姿にかつての自分(あるいは仲間)を見たのでしょう。
空遠が、ただでさえクソ強い日向のアンデッド形態を斬ることができたのは、危機の最中でさえ、もはや揺らぐことのない一つの考えを確信できたからだと思う。
確信といっても、それは自信とやる気に満ちたスマートなものではなく、虚しさと淋しさを伴った悟りに近い。
勝って新しい何かを得るより、積み上げた今を守り続けたかった――。
恐らく、こうした思いが彼の心臓に貼り付き、気力とは異なる地力の厚みで日向に押し負けなかったのではないか。
その境地に、ポジティブなエネルギーはみられない。気分は暗く沈んでいるが、沈む結果には理由があり、その理由が間違っているとは思えないから、せめて、その理由を守るために拳を握る。
星合を疑い、守れなかった後悔。
空遠の場合、その後悔がどんなに心地悪いものでも、忘れるなんてあり得ない。後悔をいつまでも抱えるのは辛いが、後悔は、正しい思いが何だったかを明らかにする指針でもある。
大切な人を守るために戦う。
もう二度と正しい思いを踏み外さないよう、後悔を継続し続けることで思いの正しさを囲い、頑強にするのだ。
「自分は為し続けれられなかったが、為し続けるべき」
その烙印を自ら額に押し、熱に冒された姿を披露することが、せめてもの罪滅ぼしとなる。
虚しいし、淋しくもある悟りだ。
8話を通じ、空遠の力の拠り所が、こうした方向にシフトしつつあるように想像してしまった。
悟りとは、必ずしも人を明快・軽快にしてくれるものではないのだと思い知る。
アザミはまた対照的。
過去のフラッシュバックにさらされ続ける空遠、または葉霧に対し、彼女は過去を消そうとしている。そんな覚悟、いや、怨念が垣間見えたのが8話でした。
あえて決めつければ、女性とはこういう存在。昨日まで好きだった男を、「イメージと違う」という直感で嫌いになれるように、「決断」と「切断」がぴったり合わさっています。
この男女の違いが、物語終盤で一波乱起こしそうな気がしなくもない。
ここに来て、瞳の変化を見せ始めた(そんな気がする)のが、VR紅一点の片割れ、朱伽。
「You Survived」
既にうろ覚えですが、このセリフのときのわずかな溜めが、残った4人(空遠、天羽、南雲、香月)を案じているようにも感じた。
彼女は何だろう、実は人間じゃないのかな。けど感情があるのなら・・・人間だとしたら、法師?
葉霧とアザミの仲間、という理解でもよいのだろうか。3人一緒のシーンはまだないはず。いずれ分かることだが、こんな風にふと考えてしまうほど、8話の朱伽には違和感があった。
さて、牙狼の鎧は、下半身からどんどん黒くなってるわけですが・・・。
黒い牙狼自体には違和感ない。肝心なのは、その狙い、使い方。
鎧が本物であるのは、確かそうだ。
これまでの考察が中らずと雖も遠からずか、それとも、てんで的外れに終わるか。
答え合わせの瞬間は近い。