lulu lalala's blog

確かかなと思った言葉を気ままに。

この牙狼を観よ! 魔戒ノ花 ~風鈴、それは声

「誰であろうとホラーは斬る。それが使命」


牙狼の新章『VERSUS ROAD(VR)』の放送が始まってから、脳裏をよぎる過去のシーンがちらほら。

中でも印象深いのが、

・・・チリン、チリン・・・。


今回は、牙狼初心者が牙狼を好きになるだろうエピソードを自分なりにご紹介します。

作品の楽しみ方は人それぞれですが、牙狼の面白さは、リアルな特撮技術や熱いアクション以上に、脚本の力が大きいと思っています。

では。


「いい音だろ」
「ああ、いい声が聞こえるよ」
「声?」


第6話『風鈴』の一幕。

黄金騎士牙狼・冴島雷牙(サエジマライガ)を主人公とするシリーズ『魔戒ノ花』で、ゲストに大物俳優・Mさんが登場した回が風鈴でした。


「売り声もなく買い手の数あるは、音に知られる風鈴の徳」

この句になぞらえるよう、節目節目に響く音が、役者のセリフに勝るとも劣らず感情を語る。作中の雰囲気は他のストーリーと比べても異質です。
追憶を表現する音として、風鈴は非常に優れたアイデアでした。

薄いガラスの振動音は、聞き手の状況により、わびしさや儚さを強調するアイテムにもなれば、笑顔や日常の穏やかさなどを思い返させる仕掛けにもなる。

風鈴自体の脆さが、刹那的な未来を暗示しているともいえる。


演技では、次のような趣旨のセリフも。

「街は変わっても職人の心は変わらない」
「職人の思いが風鈴に響き、声になって返ってくる」


これだけ聞くと、古臭い使い文句に思えるかもしれませんが、牙狼の世界ではかえって、空想に哲学を加えてくれます。

ここが特撮の強み。特殊な世界観がセリフの次元をシフトさせてくれるのは、時代劇にも共通する構造です。


さて、松方さんが演じたのは、下町情緒を今に鳴らす風鈴職人。
ですが、不慮の事故で息子を亡くし、弱い心につけこまれてホラーが憑依してしまう。


人を喰らうホラー。
対峙する雷牙。


チリン、チリン。
「いい音だろ」
「ああ、いい声が聞こえるよ」
「声?」
「あんたには何が聞こえる」
「俺には・・・なあんも聞こえねえよ」


そう、彼と雷牙は知り合い。

少年時代、孤独の雷牙はこの風鈴職人に出会い、束の間でも笑顔を取り戻してもらった。
風鈴の音色は声だと教えてもらった。

その記憶は、もう雷牙にしかない。


「俺にはこう聞こえる。あんたを斬ってくれってな」
「若造が、なめんじゃねえ」


職人の伝統、魔戒騎士の使命。
選んだ道がなんであれ、共鳴していた思いがいつしか色味を失い、別れにつながる。

受け継いだ道を信じて進めば進むほど、絶ち切らざるを得ない絆が出てくる。

ホラーと騎士。その生き様や決断の対比がストーリーにもたらす多義性は、牙狼の魅力的な特徴です。


そして決着。
「ホラーは斬る。俺が受け継いだものだ」


ラストシーン。
コツコツコツと鳴る足音は、まるで鎮魂歌のよう。


いや、実によくできてる。


矛盾や葛藤に満ちた生と死。けれど、特撮の世界観が活力を与えてくれるから、脚本全体に淋しさはあっても結末はニヒリズムには覆われない。

人が生きていくにはリアリティーだけでは足りない、空想の力も必要だと教えてくれるのが牙狼


こうした作り込みが、現実を舞台にした一般のドラマだと難しい。

優れた文化が発生するためには、時代背景の妙味が欠かせないと私は思っています。

今に残る優れた古典は、どれも熱量の高い時代性によって屋台骨が支えられている。
だから、安穏とした現代が題材だと、脚本によほど工夫をしないと感情が揺さぶられない。

牙狼の物語は、特撮という形を借りて、時代の熱量を補っている。(言い過ぎかな?)


まあ、解釈は色々。何より百聞は一見に如かずです。

興味が湧いた方は、牙狼の入門編として風鈴を是非。