騎士道戰隊ナイト連煉憐(レン)ジャー
〈登場人物〉
赤井(27)…部隊長
青柳(30)…その仲間
緑子(23)…その仲間
黒部(27)…その仲間
桜(26)…その仲間
魔物の王(年齢不詳)…魔物たちの王
白河指令(42)…戦隊指令官
副指令A(40)…白河の部下
副指令B(39)…白河の部下
頼子(30)…青柳の妻
鉄平(8)…その息子
若い女A(18)…赤井のファン
若い女B(18)…赤井のファン
男性(30)…頼子の愛人
〈その1の終わりから〉
魔物の王「この人間どもぉ。ごああ!」
大爆発。
・・・徐々に静かになる。
瓦礫からはい出る音。
赤井「……みんな、無事か?」
桜「ええ」
青柳「勝った、のか、俺たち?」
黒部「ああ。めっさ首痛いけどな」
桜「黒部君、ちょっと見せてみて」
赤井「緑子は? おい、緑子」
緑子「こっちだよ。私だって、ちゃんと生きてるから。けど……」
=三幕=
5人が両手を叩く。
赤井「こんな場所に弔って、悪かったな」
緑子「ううん。場所なんて関係ない。タイガーはいつもこの胸の中にいます」
赤井「頼りになる勇敢な仲間だった。あいつがいなければ、ここまで来られなかった」
青柳「干し肉、食わせてやればよかったな」
緑子「ホントだよ。……これで、終わったんですよね?」
赤井「ああ。7年続いた魔物との戦い。その王を、俺たちが倒したんだ」
桜「政府には打電済み。帰ったら盛大な歓迎が待ってるわね、きっと」
青柳「それもいいけど、家族と再会できることの方が嬉しいや。長かった……。2年半ぶり。しかも英雄になって。ぶはは」
黒部「何が英雄だ」
青柳「これはナイト黒部。どうもすいません」
黒部「少なくとも、俺は英雄なんかじゃない。お前に助けられた」
青柳「な、何だよ、急に」
緑子「何だよって、そういうことでしょ」
青柳「そういうことって、どういうことだよ」
緑子「だからー。ほら、黒部さんの耳、赤くなってきちゃった」
青柳「ホントだ。どうして?」
桜「ふふふ」
黒部「くっ……」
赤井「まあ、そういうことさ。さあ帰ろう、故郷に」
重い扉が閉まる。
椅子を引き、着席する音。
白河指令「式典の準備は滞りないですね」
副指令A「問題ありません、白河指令。それより、赤井の奴にはだいぶふっかけられました」
副指令B「積もり積もった不満が金で解消されれば、安いものだ」
白河指令「魔物の王が死ねば、他の魔物の魔力も消える。確かに安いものだわ。しかし、まだ気は緩めません。戦で荒廃した各地の治安と衛生状態は悪化しています。各自しっかり対応するように」
ファンファーレ。
白河司令「ナイトの英雄たち。よくぞ大役を果たしてくれました」
赤井「多くの犠牲を払いました。その命あればこその勝利です」
白河指令「彼らの命を思うのも、我々の役目。今は、ゆっくり休むといいでしょう」
赤井「はい」
歓声が上がる。
・・・雑踏の中。
青柳「黒部と桜さんは、どうして式典に出なかったんだ?」
緑子「あの二人は堅苦しいの嫌いですから」
青柳「ご褒美の話も出なかったな」
緑子「あの場じゃ言いにくかったんじゃないですか」
青柳「本当にもらえるんだよな? 俺、すっげえ当てにしてるんだよ」
赤井「大丈夫。俺からも念は押してある」
青柳「さすが俺らのリーダー。信じてついてきてよかった」
緑子「青柳さん、調子よすぎ」
ひそひそ声で、
若い女A「やっぱりそうじゃない」
若い女B「間違いないよね」
近付いてくる駆け足。
赤井「おっと」
若い女A「やっぱりだわ、本物よ!」
若い女B「世界の英雄、赤井さんですよね!」
赤井「はあ……」
若い女A「はあ、ですって。かっこいいだけじゃない、お茶目よぉ!」
緑子「ちょっと、あなたたち……」
一斉に押し寄せる群衆。
「英雄だ!」や「ありがとう!」の声。
青柳「人気者であるのは確かなようだ」
緑子「けど納得いかない。赤井さんばっかり人気が集まりすぎじゃないですか?」
青柳「お前の心配はそこじゃないだろ。じゃあ赤井、俺はこの辺で」
赤井「ああ。ご家族によろしく」
壁ごしに聞こえる群衆の声。
獣の喉が小さく鳴る。
・・・ドアを叩く音。
青柳「……よし」
「はい」とドアが開く。
青柳「ただいまー、生きて帰ってきたぞ! 頼子、鉄平!」
頼子「あなた……」
ビールを飲む音。
青柳「ぷはあ。やっぱり家で飲む冷たいビールは最高だ。それでな、俺がこう、魔物の王に斬りかかった隙を突いてだ、奴の大口に、リーダーがとどめの1発を決めたのよ。いやあ、かっこよかった。俺が。ぶはは!」
頼子「……無事で、よかったわ」
青柳「式典に来れば、俺の雄姿を見せられたのに」
頼子「それは……」
青柳「いいんだ、いいんだ。お前も女一人で大変だったろ。そのうちたんまり報酬が入る。その金で家族旅行へ行こう。行軍中にいい温泉見つけたんだ。農協の仕事に戻るのはそれからだ。鉄平はまだ帰ってこないのか?」
頼子「もうすぐ、だと思うわ」
青柳「背、伸びてるだろうな。俺より大きかったりして。いや、まだ8歳だった、それはないか」
ドアが開く音。
青柳「帰ってきたな。出迎えてやろう」
頼子「あなた……」
鉄平「ただいまー」
青柳「お帰りぃ、我が最愛の息子よ!」
鉄平「パパ?」
青柳「でっかくなったな。顔もお母さんに似て、凛々しくなってきたじゃないか。早く上がれ、お前には色々話したいことが……。ええっと、そちらの人はどなただ?」
男性「こ、こんにちは……」
頼子「鉄平、2階へ行ってなさい。あなた、説明するわ」
鍋が煮え、泡が溢れる音。
テーブルを叩きつける音。
青柳「ふ、ふざけるな! じゃあ、お、お前は、俺が……」
頼子「ごめんなさい……」
青柳「ごめんで済むかよ!」
男性「頼子さんは、心身ともに疲れ切っていたんです。そこへ、あなたが戦死したとの報せがあり」
青柳「てめえは黙ってろ! 叩き斬るぞ!」
鉄平「ねえママ」
頼子「鉄平、2階にいなさい」
鉄平「パパが帰ってきたんだ。新しいパパはもう要らないでしょ?」
頼子「鉄平!」
男性「鉄平君、僕はね……」
青柳「どいつもこいつも、うるせえ! ちくしょう、何てこった。ここも地獄だ。戦場にはまだ仁義があった。けどここは……」
椅子から立ち上がる音。
頼子「どこへ行くの?」
青柳「もう、顔も見たくない」
足音とともに、床が鳴る。
ドアが開く音。
鉄平「パパ、どうして?」
ドアが閉まる音。
・・・客でにぎわう酒場。
緑子「青柳さんも今頃、家族と食事ですかね」
赤井「さあ、どうかな」