〈その4の続き〉
風でなびく旗。
青柳「がはっ。つ、つええ……」
桜「そろそろ赤井君も来る頃かしら。3人になるとさすがに厄介ね。ほら、立ちなさい」
青柳「ち、ちくしょう」
桜「先に逝っててくれる?」
緑子「青柳さん!」
剣で切られる音。
桜「寝そべっていられると邪魔だから、落っこちて」
突き飛ばされる音。
風の音。
緑子「あ、ああ……」
桜「衝突まで3秒前。スリ―、トゥー、ワン」
風の音。
桜「あら?」
血が垂れる音。
救急車のサイレン。
青柳「うう……」
赤井「青柳。こらえろ。あとは俺がやる」
勢いよく飛び跳ねる音。
着地。
緑子「赤井さん」
桜「思ったより早かったわ」
赤井「脚の鍛え方が違うんだ」
桜「私はね、あなたを殺す気はないの」
赤井「何?」
桜「興味津々なの。魔物の女王が逞しい人間の雄と交わったら、どんな化け物が生まれるか。黒部君には食欲が勝っちゃったけど」
すすり泣く緑子。
桜「あなたがあの王を倒した時、私の銃剣を使ってくれたでしょ。あの瞬間、まるで前戯のような幸福を感じたわ」
赤井「よく喋るんだな。寡黙な奴ほど言葉を秘めてるらしいが、とんだ淫語の玉手箱だ」
桜「この卑しさは人間から教わったものよ」
赤井「緑子、青柳はまだ生きてる。お前は動けるか? 遠くへ離れてろ」
緑子「ううっ」
桜「何よ。戦わないって言ってるじゃない。そんな必要ないもの。また、いじってあげる! はああ!」
緑子「赤井さん、また記憶を!」
赤井「緑子、お前の剣を充エネして俺のと重ね合わせろ!」
緑子「剣?」
赤井「早くするんだ!」
緑子「はい!」
二つの剣が重なる音。
桜「はああ!」
きーん、と激しい音が鳴る。
緑子「あ、赤井さん!」
赤井「動くな、このままだ!」
桜「ああああ!」
きーん、と激しい音。
徐々に鳴りやむ。
=六幕=
とんとん、と包丁がまな板を叩く音。
頼子「そろそろ、パパを起こしてきて」
鉄平「はーい」
テーブルに食器を並べる音。
青柳「おはよう」
頼子「もう、いつになったら1人で起きられるの? あなたは、この世界を魔物から救った英雄なのだから。そんな人が朝に弱いだなんて、かっこ悪いじゃない」
鉄平「そうだよ、パパ」
青柳「悪い。魔物とは夜戦うことが多かったから、その後遺症がな、残ってるんだ」
頼子「もう」
青柳「まだ眠いなあ。あっ、いたたたた。あくびで傷口が」
頼子「大丈夫? 鉄平、お薬取ってきなさい」
ドアが開く音。
青柳「じゃあ、行ってくるよ」
頼子「行ってらっしゃい。あんまり辛いようなら、無理しなくていいから」
青柳「なに、このくらいへっちゃらさ」
キス。
・・・ざっ、と足音。
緑子「青柳さん……」
赤井「行こう」
時計の針の音。
白河指令「まだ見つけられないのですか」
副指令A「申し訳ありません」
副指令B「人類の裏切り者は必ず」
白河指令「そのセリフは昨日も聞きました。黒部のような犠牲者がまた出ないうちに、探し出すのです」
重いドアが開く。
桜「そのセリフは一昨日も聞いたわ、白河『副』指令」
白河指令「桜様」
桜「人手が足りないなら徴兵を増やせばいいじゃない」
白河指令「ですが、これ以上若者に義務を強いるのは」
桜「徴兵は若者の義務、という考えがそもそも間違いなの。中年や老人から徴兵なさい。人探しくらいできるでしょ」
白河指令「その者たちだと仮に赤井たちと戦闘になった場合、対処できないのでは?」
桜「居場所さえ分かれば問題ない。名誉の戦死よ。それにね」
白河指令「はい」
桜「まあいいわ。とにかく、人手は増やすように」
「はっ!」と白河指令たち。
こつこつ、と廊下を歩く音。
桜「美味しくないのよね、年寄りは。それにしても、私の魔術から逃れるなんて。あまり野放しにするのはあれだけど、その時は……」
青柳「桜様、おはようございます」
桜「おはよう、青柳君。ご家族はお元気?」
青柳「はい、おかげ様で」
桜「民を統べる立場も、一家の大黒柱も、責任の重さに変わりはないわ。特に青柳君の奥さん、綺麗だから。悪い虫に注意しないと」
青柳「いやあ、あれにそこまでの魅力は」
桜「ふふ。英雄に匹敵する男なんていないものね。その力、民のために尽くして頂戴。最後はあなたが、この世界の鍵になるのだから」
青柳「はっ!」
梟の鳴き声。
颯爽と駆ける音。
緑子「私たち以外は、みんな本当に記憶を改竄されているようですね。私は、赤井さんのおかげで助かりました」
赤井「ツインブレードの応用だ。2刀の剣を重ねてエネルギーを増幅し、シールドを張った。それで記憶を改竄する魔力を弾けないかと思ったが、うまくいった」
ずざっ、と止まる。
赤井「行こう。手はず通りに」
緑子「はい。うぅ……」
赤井「泣くな。しっかり話し合ったろ」
緑子「はい……」
爆発。
警報が鳴る。
「侵入者だ!」や「赤井だ!」の声。
また爆発。
青柳「赤井!」
赤井「青柳」
剣と剣の衝突。
青柳「赤井ぃ、この裏切り者が!」
赤井「裏切り者か。俺が黒部を殺したって、そう刷り込まれたんだな」
青柳「何!」
赤井「けど、それももうじき終わる。おおっ!」
弾き飛ばされ、滑る音。
青柳「くっ!」
赤井「出てこい! もう駒は必要ないだろ!」
雷鳴。
桜「もう少し、泳がせてもよかったのだけど」
赤井「ふざけろ。もう十分だ」
青柳「桜様!」
赤井「青柳、目を覚ませ。こいつは魔物だ」
青柳「世迷言を」
赤井「俺はここで死んでもいい。だが、お前は生き残れ」
青柳「完全に正気を失ったようだな、赤井」
桜「青柳君、離れてなさい。彼とは2人で話したいの」
赤井「悠長に話す気はない。記憶を変える時間は与えない。その暇もなく瞬殺する。それが、お前に用意した殺し方だ」
桜「緑子はどこ?」
赤井「話す気はないと、言っただろうが!」
剣と剣の衝突。
桜「私を瞬殺とは、さすがに大きくですぎね」
赤井「どうだか」
シャッ、と剣を抜く音。
桜「その剣!」
赤井「力を貸してくれ、黒部! おおおっ!」
ばちばちっ、と激しい音。
赤井「トリプル、バースト!」
桜「これは、私の銃剣の力も利用して!」
赤井「おおおっ!」
桜「ぐ、ぐぐ……」
青柳「さ、桜様!」
バチバチッ、とさらに激しい音。
桜「あ、熱い。剣から手が離れない……」
赤井「何倍にも増幅したエネルギーの引力。ここで消滅しろ、俺と一緒に!」
桜「何ぃ!」
赤井「仕上げだ。緑子ぉ!」
剣を構える音。
緑子「剣先の充エネ完了。行ってぇ!」
桜「お、おのれ!」
放たれる光線。
ばちぃっ、と弾ける音。
緑子「そんな!」
青柳「桜様は、俺が守る!」
赤井「青柳、邪魔をするな!」
桜「よくやったわ、青柳君。そのまま緑子の光線を受け止めてなさい。どうする赤井君。このままじゃ2人とも死ぬけど、魔力を使える私の方が有利と思わない?」
赤井「くっ……」
桜「あなたの子供欲しかったけど、殺されるくらいなら殺して、喰ってやるわ! ウェルダンは好みじゃないんだけどね!」
赤井「ぐう!」
緑子「赤井さん! ……タイガー、私にあなたの勇気を分けて……。やあ!」
飛び跳ねる音。
青柳「飛んだ? どうする気だ!」
緑子「やああ!」
桜「真っ直ぐ降りてくる。私たちの間に、直接剣を叩き込む気?」
赤井「よせ緑子、やめろ!」
緑子「やあああ!」
凄まじい閃光。
青柳「こ、この光は! 桜様ぁ!」
大爆発。
瓦礫が降る音、次第に収まる。
・・・ごとっ、と瓦礫が動く。
桜「ふ、ふふ。危うく死にかけたけど、失敗したみたいね」
赤井「み、緑……」
桜「銃剣の交差法を扱うには、まだ未熟だったようね。それでも、お互い満身創痍。けど」
青柳「さ、桜様」
桜「これで2対1。さあ、いい加減諦めて私に従いなさい。楽しいことしてあげる」
青柳「桜様、自分によい考えが」
桜「うん?」
剣が突き刺さる音。
桜「なっ……」
赤井「青、柳?」
青柳「さっきの光で、魔術が解けちまったようだ。ちくしょう俺は、俺はぁ……。赤井ぃ、寝てんじゃねえ、今だぁ!」
赤井「お前。……お、おおおお!」
桜「き、貴様ら! ぐはっ! い、卑しい人間ごときぃ!」
赤井「おおお!」
一刀両断。
ぽつぽつと雨が降りだす。
赤井「はあ、はあ」
青柳「すまない、赤井。うう、黒部ぇ、緑子ぉ……」
赤井「はあ、はあ……」
=七幕=
重い扉が閉じる。
白河指令「我々は、まだ完全に魔物には勝利していません。赤井。あなたに戦隊の最高位、レッドナイトの称号を授けます。潜んでいる魔物を探し出し、討伐するのです」
赤井「はっ」
白河指令「ところで赤井。他にも魔物の探索・討伐隊を派遣しようと思うのですが、人手に限りがあります。一部隊の編成はどうしたらよいと思いますか?」
赤井「はい。それでしたら……」
にぎやかな街中。
青柳「もう少し休んでいけばいいのに」
赤井「十分だ。これ以上休んだら、腕が鈍る」
青柳「しかし、お前の新しいお仲間たち、本当に大丈夫か? 缶切りもしたことなさそうな、青っちろい若造たちだ」
赤井「ここを出れば変わるよ。お前みたいに」
青柳「だな。いつ帰ってくる?」
赤井「分からない。当分お別れだ」
青柳「リーダーの苦労好きには頭が下がる」
赤井「苦労なら、お前も背負ってるじゃないか。家族問題で」
青柳「それを言うなって。ちくしょう。あの2人の記憶だけは戻らなくてよかったのによ」
赤井「笑ってそう言えるお前が頼もしいよ。……そろそろ時間だ」
青柳「おう。安心して暴れてくれ。お前のいない間、この街は俺が守る」
赤井「ああ」
木々が揺れる音。
青柳「行っちまったな……。必ず帰ってこいよ。お前の子孫は、絶対に残さなきゃならないらしいからな。……まったく、この先、世界はどうなることやら。けどもまあ、頼もしい限りだぜ。なあっ!」
木々が優しく揺れる。
=終=
騎士道戰隊ナイト連煉憐(レン)ジャー
〈登場人物〉
赤井(27)…部隊長
青柳(30)…その仲間
緑子(23)…その仲間
黒部(27)…その仲間
桜(26)…その仲間(正体は、もう一人の魔物の王)
魔物の王(年齢不詳)…魔物たちの王
白河指令(42)…戦隊指令官
副指令A(40)…白河の部下
副指令B(39)…白河の部下
頼子(30)…青柳の妻
鉄平(8)…その息子
若い女A(18)…赤井のファン
若い女B(18)…赤井のファン
男性(30)…頼子の愛人
一般人(20)…通りすがり